『同窓生便り』第8号 73回生 上塚 真由「NYでの記者生活、母校に思い馳せ」

甲南小学校73回生の上塚真由です。私はいま米国のニューヨークで記者として働いています。大学卒業後、産経新聞社に就職し、「いつかは特派員として世界のニュースを扱ってみたい」と抱いていた夢が、入社から16年目で叶いました。

①上塚NYオフィス

2016年5月に米国に赴任し、大統領選の取材を2度経験。さらに、移民問題、北朝鮮核・ミサイル開発をめぐる国連制裁、女性たちのセクハラ告発運動、新型コロナウイルスの流行、黒人の差別撤廃運動…など取材テーマは多岐にわたりました。同僚からは「大きなニュースが続いて良い時期に赴任したなぁ」と面白半分で言われますが、日々移り変わる米国や世界のニュースに頭を切り替えて対応していくことに大変さを感じています。
そんな中でも、なるべくニュースが起きている現場に足を運ぶようにしています。インターネットで多くの情報があふれる時代だからこそ、実際に何が起きているのか、何が問題なのかを見極めるのは難しいかもしれません。現場で生の声を伝えるとともに、専門家の見解も紹介して、読者に「考える材料」を提供できるように日々心掛けています。

②大統領選・トランプ氏支持者

この5年間で最も印象に残っている取材は、2017年8月に南部バージニア州で起きた、白人至上主義者と反対派の衝突事件です。地元の新聞で「白人至上主義者の集会が予定されている」という小さな記事を見つけ、意気揚々と向かいましたが、現場に着いたとたん、後悔しました。ヘルメットやゴーグルで身を防御していないのは私だけ。屈強な男たちはあっという間に乱闘騒ぎに。頭上では木片やバットが飛び交い、催涙スプレーを浴びせられ、路上にうずくまり、恐怖で動けなくなりました。

③白人至上主義2

白人至上主義とは、ヨーロッパ系白人のみを認めるという排斥的で危険な思想です。ただ、集まった白人の若い男性たちに話を聞いてみると、危険な思想に心酔するまでには、学校でいじめにあったり、就職に失敗したりなど、さまざまな不満や挫折を抱えていることが分かりました。人種の多様化が進む中で「俺たち白人こそ、社会に取り残された犠牲者だ」というのです。トランプ前大統領の登場により米国人の本音や感情がむき出しとなり、米社会のひずみが露呈した場面がたくさんありました。

④黒人差別抗議デモ

また、新型コロナウイルスの影響によって、人々の生活ぶりも大きく変容しています。3月上旬現在、米国は感染が収束にむかっていますが、毎日5万人以上の感染者が確認されています。世界中の人やモノが集まり、エネルギーに満ちていたニューヨークの街からは人影が消え、劇場街ブロードウェーも再開のメドが立っていません。これまで思い描いてきた米国の形や、ニューヨークの姿はすっかり変わってしまいました。そして、米国は今、ものすごいスピードで「新しい当たり前」の社会へと突き進んでいます。

⓹ブロードウェー

日々の仕事で疲れることも多々ありますが、そんな時には、甲南のつながりにとても助けられています。甲南小学校、甲南高校、甲南女子高校…と卒業生でニューヨーク在住の方は少なくなく、芸術や科学の分野など多方面で活動されていて、みなさんの活躍に刺激を受けています。また、世代が違っても「甲南生」という同じ雰囲気を感じ取り、あっという間に仲良くなれることがよくあります。米国での赴任生活は、母校の存在に思いをはせ、ありがたさが深く心にしみる日々ともなっています。